かたんかたん。

すぐ下が線路なのだ。
床に耳をつけて、聞こえた音。
枕木とレールによって生み出される音。

かたんがたんがたん かたん かたっかたっ たん

小気味のよいのを最後に、音が止んだ。
耳を澄ますとわずかに余韻があった。が、すぐに消えた。

行ったのだ。

誰もいない、いなくなった部屋にしんと空気がおりた。

静寂、である。それもひどくつめたいもの。線路の音、それが消えた瞬間ぴきりと音をたてて凍りついた。もはや取り囲む自分以外のすべてのものが静謐の騒音を放っているのだ。椅子、テーブル、テレビ、壁、そして床。わんわんと鳴り響く。怒鳴り通す。絶えず何事か叫んでいる。聞き取れない。そこにあるのは意味の無いもの。けれど彼をひどく傷つける。


うるさい!


さあ離せ、離すんだ!彼は自分の耳に念じる。僕はここを出て行きたいんだ。にどと戻ってはこないつもりだ。そうだ、帰れないようにしてしまえばいい。壊すのはいやだから、燃やしてしまおう。こわすのは炎だもの、僕のせいじゃない。 家具はわめき続ける。 悪いことなんてないじゃないか。僕は幸せ、きっとあのひとも。他のやつらは知らない。だからさ、ほら、離せ。はやく、はやく、はやく、はやく!


でも、どこか遠くの足音、彼にとっての希望を聞こうとするように、彼の体は命令をきかない。そしてそれはいつまでたっても聞こえず、あるのは小鳥のさえずりと、絶望の雑音。






それからしばらくした、西陽のさす頃に家にもどってきた母は床に濡れた頬をくっつけたまま眠り込んでいる子を見つける。 そしてあわてて彼を抱き上げるのだ。