暇。暇すぎる。パソコンも飽きた。テレビゲームも飽きた。もう、世界に飽きた。でも、飽きたことで暇を潰す。だって、それしかないから。
そんな毎日。ありふれた彼の日常。学校へも行かず、家の中で何もせずに過ごす。
・・・そんなんで学校行かなくていいの。
『・・・別に。やる気ないし、面白くないし。』
じゃあ、外に出るだけでもしたら。
『そんな事したところで、何になるってんだ。世界を支配できるのか。』
抑揚のない言葉。感情の欠片もない表情。まるでゲームに取り憑かれたように、機械的に手を動かす。正確に、絶妙なタイミングで。
そして、物語は終わる。エンディングというやつだ。少年がなんだかんだで一番やりこんでいるゲーム、「義経伝」。もう、何十回と見せられたから、空で思い出せるけれど。
・・・けれど、なんだか今回は違ったようで。
「おかしいな・・・エンディングの後にこんなのあったっけ。」
現れたのは義経。なにやら、じっとコチラを見ている。画面に近寄る義経。そして・・・。
「そこの!私と代われ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?
意味もわからずぽかーんとしている少年。しかし、こちらには気づかず、なおもそのCGは話し続ける。
「私はこのようなところで死ぬような器ではないのだ!そこでだ。一時的に私の体を貸してやるから、兄を討伐してきてほしい。」
「・・・だって、実際の歴史とは違って、生き残るんじゃ・・・」
「違う!!この媒体の事ではない!現実、つりは歴史を変えろと言っているんだ。」
プログラムされたものとは思えない、奇妙な言動。めちゃくちゃな方法ですよ、全く。
「歴史を変える・・・」
少年は少し考えて、
「嫌だ。面倒くさい。」
そう答えたのだ。
「何故だ!?そなた相当な技術を持っているだろう!歴史をこの手で変えるなど、めったにできる事ではない。」
「技術なんてないから。それに、自分の立場が変わるわけでもないし。とにかく僕はやらないからね。」
まるで牛若丸のように、ひらりひらりと言葉をよける少年。しかし、それは言葉だけの話。
「もういい!」
その言葉と同時に、なにやら呪文を唱え始める義経。
つまりは、強行手段に出たのだった。
何もできず、ただただ呆然とする少年。
と。とたんに目の前が暗くなり、また直ぐに明るくなった。

*

そこは、穏やかなときの流れる、和室。おそらくは平泉であろう。
横には体格の良い僧が。
「ここは・・・どこ?」
目を覚ました少年は尋ねる。何も分からないのも無理はない。
「何をおっしゃる?平泉では御座らぬか?」
「えっ。」
「どうなされた?<義経殿>。」
「待ってよ!?義経なんていないから!だて、今は2007年じゃないか!」
あわてふためく少年。しかし、見かけは今までの少年ではなく、完全な義経のものだった。
「義経様、頭大丈夫ですか?今は文治3年ですよお?」
新たな声が割り込む。弓を構えた青年だ。文治3年といえば、西暦で言えば1187年。完璧にとばされちゃったみたいね。
『嘘だろ?タイムスリップしちゃったの、僕?あり得ないし!』
・・・まあ、とにかく今は義経役してたほうがいいかも。本物じゃないって分かったら、最悪殺されちゃうし。がんばって。
はあ・・・とため息をついた少年。
「悪かった。・・・夢を、みていたものだから。」
と、素直に謝った。義経になる覚悟をきめたのだろうか。
「そうであったか。この弁慶、いささか心配いたしましたぞ。」
「ほんとほんと。俺が那須与一だって事まで忘れたのかと思った。」
ほっと胸をなでおろす僧と青年。しかしそれもつかの間だった。
「敵襲!敵襲!藤原軍に御座います!」
それを聞いて、今までやさしげな顔をしていた二人の表情が、武士らしい、真剣なものに一変。
「敵の数は」
「約500騎です。」
「こちらはせいぜい10騎程度・・・、不味いですね。」
二人が話している間、義経は一人で考えていた。
『藤原って・・・やばい!!最終決戦じゃん!僕死ぬ!絶対死ぬ!』
そう、過去に生きる弁慶や余市にはわからないのも当然だが、歴史で言えば、義経は自害した、最終決戦。間近に迫る死に直面して、怯えるのも無理はない。だって、中身はただの少年なのだから。
「どう致す、義経殿。こちらの無勢に変わりはありませんが・・・」
「嫌、嫌だ!!僕はまだ死にたくない!!」
「・・・わかりました。退却のため、できる限りの事をしましょう。義経様、戦の準備を。」 

*

『どうするのさ!?僕、馬なんか乗れないよ!』
半泣きになっている義経。「英雄」の「え」の字すら伝わってこない。
仕方ないなあ、手伝うよ。あんまり長くは保たないから、おとなしく体貸してよ!?
義経である少年から体を借りた私は、躊躇することなく、馬に跨った。
刀を腰につけ、一応長刀も持って、逃げていく。が、しかし、直ぐに取り囲まれてしまった。二人がこちらを見る。この数で使い慣れない刀は無理だ。そう思った私は、長刀を構え、馬を飛び降りた。
懐かしい感触。きっとここに私がいたら、きっとこうしていただろう。
無心になって、長刀を振るう。が、敵は減らず。せめてもう少し、とも思ったが、時間が来てしまった。後はあの少年に任せるしかない。
そして私は、深い眠りについた。

*

先ほどまで役目を代わってくれた人はもういない。後は、自分でやらなくちゃいけない。
そう思うと、足が竦む。怖い。
周りは敵だらけ。与一さんも、弁慶さんも、傷だらけだ。

・・・
ずっと、逃げてきた。社会から?いや、自分から。
中学2年の時に、いじめを受けた。それも、大親友から。それで、僕は世界が信じられなくなった。でも、同時に自分の本音にも背を向けた。僕は中身のない着ぐるみみたいに、ただただ倉庫で引きこもってた。そのまま処分されるのを待ってた。
・・・

でも。僕は刀を抜いた。正直、刀なんか構えた事はない。恐怖と、責任が入り交じって、刀は余計に重かった。
冷静になろう。僕はそう言い聞かせた。そのまま、何を考えればいいのか分からなくなってしまいそうだ。
そんな時でも、下らない事を考えている自分がいて。ゲームで、こんな時どうしただろう?
迫る敵。僕はとうとう訳が分からなくなって、叫んだ。
「○○→×←××↑△!!!」
義経の必殺コマンド。回転しながら刀を振り回す囲まれたときに最も有効なコンボ。
僕は驚いた。実現不可能なはずなのに、体が勝手に動いたからだ。こんな事ができるなんて。 

*

その後も敵を倒しながら進み、とうとう山小屋までやってきた。
中には誰もいない。それに、追ってが来る気配も、今はない。しばらく休める。さすがにもう、限界だった。やっぱ、こんなの素人にゃ無理だ。僕は、二人を休ませながら、「義経」に問いかけた。
『おい、義経!お前、逃げたままでいいのか!?』
義経への、率直な質問。
同時に、自分への質問。
返事は、ない。
『仲間を見捨てたままでいいのかよ!?』
すると、返事が返ってきた。
『仲間を見捨ててなど、いない。だからこそ、そなたを使ったのだろう?』
『違うだろ!自分の仲間は、自分で守るべきだ!!』
一番分かち合いたかった大親友に、裏切られた。今までは、もう記憶から消そうって、逃げてた。
だけど、今は向き合わなくちゃって、分かってる。僕は、大親友を、裏切りたくない。
『お前は、お前を殺したがってる兄さんと同じになっちまうんだぞ!』
返ってこない答え。ただ、目の前がまた真っ白になった。

*

目が覚めると、そこはもう、僕の部屋だった。帰ってきたんだ。でも、納得がいかなかった。まだあいつの答えを聞いてないのに。
テレビをつける。午後のニュース。
『大変な事実が分かりました!!弁慶が書いたという書物が発見されました。これは1187年に源義経が死んだ後に書かれた書物と考えられており、その中には義経が自らの身をもって仲間を守ったという内容が記されているとのことです。専門家によると・・・』
そっか。あいつは仲間を守ったんだな。そう思うと、僕も晴れやかな気持ちになった。

*

『おい!!』
振り返ってみれば、懐かしい顔。
『どうしたのですか?そんなに息を切らして。』
『お前、あの子のことをずっと見てただろ。』
『ばれてしまいましたか。』
『すまない!こんな危険な目に遭わせて。』
『いいんですよ。少し、生きていた頃のことが懐かしくて。でも、もう安心なようですから、そろそろ成仏するつもりです。』
『だったら・・・』
『どうしました?義経様』
『だったら!向こうで一緒に暮らそう!静!!』

*

今、それぞれが、明日への一歩を踏み出す!!