「春だね、真。」 亜希はつぶやく。 「ああ、そうだな。」 幼なじみの真が言う。 「こっちの世界にも桜ってあったんだねー、意外。」 桜の木をながめながら亜希はしみじみ言った。 亜希と真は、約1ヶ月程前にここへいつの間にか来ていた。 いつもの世界に似ているもう一つの世界。 その世界に巻き込まれてしまった2人はまだ普通の世界に戻れないまま。ここに来てかなりの時間がたった。否、たっているはずだった。 というのも、この世界には時間が存在しない。 それ以外はほとんどいつもの世界を変わりはなかった。 風が吹いて桜の花びらが少しずつ散る。 「うわー、すごいキレイ。どうして今まで桜があるって気づかなかったんだろうね。」 亜希はそういいながら桜の花びらを拾ってながめていた。 しかし真はだまっている。何か考えごとをしているのだろうか。 「どうかした?」と亜希は真の方を見る。 「いや別に。ごめん、話聞いてなかった。」 「えー、ひどい。」 「だからごめんって。で?」 「うん、えっと、だからお花見なんかしたら楽しいかなーって思って。」 どう?と亜希は真の顔をのぞき込む。 「いいけど、こっちの世界でやってもいいものか…?」 「たぶん大丈夫!じゃ、葉月と美夏呼んで…って呼べないじゃん!!」 はぁ、と亜希はため息をついた。 「…早くもとの世界にもどれたらなぁ…。」 「まぁ、戻ることが最優先だから、戻ったらすりゃいいだろ。」 絶対戻れるって思ってないと戻れねぇよ、と真は言った。 「…そうだね。」 亜希はしょんぼりしながらも納得したようだった。 数時間後、亜希と真は一度家に戻ったものの、 亜希は桜の木が気になり、そこに向かった。 「何だろう、変な感じがする。さっきと何かが違っているような…。」 でも、そんなのは自分の気のせいだろうと思いはじめて、亜希は桜の木の横の草原に寝転んでみた。初めは落ちている桜の花びらを手の平に乗せてみたりしていたが、この心地よい季節のせいか、だんだん亜希は眠くなってきて、 寝てはいけないと自分に言い聞かせながらもいつの間にか眠っていた。 真はそのころ、急用で亜希の行こうとするような場所をかたっぱしから探していた。 そして、やっと桜の木の近くで寝ている亜希を見つけた。 *** どれ位の時間がたっただろうか。 亜希が目を覚ました時、亜希がいた場所は見覚えのある部屋だった。 「…あれ!?ここ、本当のあたしの部屋?」 状況が全く分かっていない亜希のもとに、ドアをノックする音がした。 「亜希!入っていい?」 「あ、真!?いいけど…。」 「やっと戻ってこれたんだ!よかった!これで普通の生活に戻れるな!」 真はとてもうれしそうに言った。 「へ…? あ、やっぱりここあたしの部屋だよね。 本当に戻ってこれたんだ。よかった…。」 やっと状況を理解した亜希は安心するほうが先のようだった。 「なんだよ、もっとよろこべよ。亜希らしくないよ。」 「え、あ、そう? まだ実感わかなくてさ…。ていうか、あれは夢じゃないよね?」 「そりゃ、夢じゃないけど、向こうの世界があった証拠はないんだよなー。」 「なんか、変な感じ。」そう言って2人は少し話したあと、真は帰った。 しばらくして、亜希は床に何かが落ちているのを見つける。 それは、うすいピンク色の桜の花びらだった。