2008年11月。

 喫茶店。
君と通いつめた。
 入って右側の奥の方にある小さなテーブル席。
 ちょっと訛りのある店長さんとポニーテールが良く似合う女子高生のバイトさん。
 ふちにチューリップの模様がついてる可愛いカップ。
 BGMは店長さんが好きなマイケル・デイビス。
 君はいつもアイスティー。
 私はいつもアイスココア。
君は私が好きで。
私は君が好きで。

 いつものように私たちは小さなテーブル席でアイスティーとアイスココアを店長さんに頼んで、喋ってた。
でも、ふと、いつもよりマイケル・デイビスが大きく聞こえた。

 君が呟いた。ころんと。テーブルの上にビー玉を転がすみたいに呟いた。

 「わかれよっか」

 分かってた。気付いてた。
 いつの間にか、サンタさんがいないことを知ってる子供みたいに。
 私達のこれは恋愛じゃないって。
 私達は恋愛をしたかっただけなんだって。
 お互いに好きだったけど、そういう、好きじゃないって。
 分かってた。気付いてた。

「うん。別れよ」

カラン、と氷が鳴った。

2011年12月。

街で偶然会った。
君に会った。
 「久しぶり」
 「うん。久しぶり」

 久しぶり、友達。

 「行こうか」
「うん」

喫茶店。
入って目の前のカウンター席に二人で並んで座った。
君はアメリカンコーヒー。
私はウインナーコーヒー。

「どう?」
「ん。変わった」
「そっか。私も変わった」

BGMはマイケル・デイビスじゃなかった。

 「結婚した」
 「うん、おめでとう。うちの弟も結婚したよ。」
 「そっか、目出度いね」
 先越されちゃったよ、と君は笑った。
 けど、君のその眼は愛して守りたい人がいる眼。
 焦ることはないよ、と私は少し偉そうに言った。

「会えて…別れて…良かったね」
「うん。それに、また会えて良かった」

ポニーテールが良く似合ってたバイトさんは店長さんになっていた。
 真っ白い湯気の立つカップのふちにはチューリップの模様があった。

「……また10年後くらいに会おうね」
「うん」



コーヒーチケットを、二人で買った。