「これとかどう?」
「高い。」
晴美はパチンと指を鳴らした。それが不服な時の彼女の癖なのかもしれない…等と思いながら勝巳は再び歩を進めはじめる。
「あのねぇ、文句言ってばっかじゃ買えないじゃない」
「無駄な出費になるくらいなら買わない方がまだ良い。」
勝巳はその足でそのまま帰らんばかりの勢いだ。
「年末商戦で、これでも安くなってるのよ?」
「安くしなきゃいけないだけの理由が商品に有ったんだろ。」
時はバブル後、世の中は冬である。
師走の忙しいこの時期に車まで出させられた上、身体どころか財布まで寒くする気は勝巳には無かった。
「そう言えばヒーター買ったら?去年から勝巳の家のエアコン、効きが悪かったじゃない。」
晴美は機械が苦手だと言いながら新しい物への購買意欲は強い様だ。
「そうか?大差なく感じる」
「だってシノブが寒がってたわよ?」
「…。」
シノブは晴美の息子で…勝巳の息子でもある。
二人が大学生のころに出来た子で、経済面や諸事情から晴美の実家に預けている。
と、いうより返してもらえない。
どうやら晴美の実家は何らかの芸能の家元らしく(入籍の時正式名称を聞いたが正式すぎて理解出来なかった)シノブを幼い頃から仕込み、跡継ぎに…と言う事の様だ。

裁判に訴えようにも晴美は実家に住んでいるため、シノブは母親の元に居る事になり、にわかに面倒くささをまして来てしまう。
また、シノブは嫌がっていないそうなので勝巳は事を荒立てるのを避け、今に至っていた。

そんな一家が集まるのは週末や夏の長期休暇等に限られてしまう。
その様な日に子供に寒い思いをさせるのも可哀相だ。
「値段は?」
「本当にシノブには甘いわね…。」

ヒーターを自宅に郵送する手続きを済ませた二人は同じ建物の小物売り場に足を伸ばした。
「あ、コレ。」
晴美が小さめのダストボックスを持ち上げる。
「ほら、可愛いと思わない?」
笑顔で言って勝巳にそれを向けた。
卵型、と言うよりも卵を模したのであろうそれは、顔が描かれていて朗らかにキャラもの…しかも勝巳でも知っているものだった。
『ランオウマン』。
悪の茹で卵機等と戦う生卵をモチーフとしたキャラクターで、おなかをすかした子供に自らの頭を割って中身をすすらせる特撮ヒーローだ。
特撮というからには、実写な訳でかなりシュールな作品になっている。
正直、幼い頃の自分はアレの何が楽しかったのだろうか…。

勝巳はしばじの沈黙の後に、手を伸ばしてダストボックスの上部を開け中を覗き込む。
側面は白、底が黄色。
「…グロい。」
「えー、何でよ?」
晴美はどうやらレジに向かう様だ。
「…それをシノブが好きなのか?」
勝巳がそう問うと晴美は再び笑う。
「解ってきたわね。」
晴美はレジにダストボックスを置くと財布を探しはじめる。
「良い、俺が払おう。」
「ん?どうして?」
レジ打ちは勝巳と晴美のやりとりを少々戸惑って見ている。
「その代わり、俺の家に置く。」

さすがの晴美もその申し出には驚いたが、少しすると、
三度目の笑いを吐き出した。


一年の最後の日を、今年は三人で過ごしてみよう。
新しいヒーターとランオウマンを迎えて楽しもう。
疲れたら寝て、
一年の最初の日も三人で迎えられたなら、それも良い。