屋上から、周囲を見渡す。
彼方向こうに山、それより少し手前には、背の高いビル、民家、鉄塔、電線。
視線を下に移せば校庭、上には雲が多い空。
そして、右隣には、
「くあ〜〜〜〜、ねむ……」
やる気のない目でどこか遠くを見つめている、一人の男。
眠いとは言っていながらも、その目は一点を見すえている。
「何見てんの?」
「うん、何も?」
「嘘、今、うんて言ったじゃん。教えなさいよう」
「ん、あそこから飛び降りたら、地面に叩きつけられる前に異次元に行けんじゃないかと」
ふわぁ。もう一度あくびをする。半分くらいしか開いていない目は、潤んでいて少し色っぽい。
「直樹らしい。…ここから飛び降りた所で、ぐちゃぐちゃになるだけだもんねぇ、多分」

「…行ってみるか」
「どこに?」
「異次元への入り口」
さらりと言う。が、それはつまり鉄塔からの飛び降りを意味する。
「死んじゃうかもよ?」
「構わないよ。俺は行く。…もし死んだら、葬式に出てくれるかな」
鉄塔から目を離し、私の方へと向き直る。
「残念だけど、それはできないな。」

「私も一緒に連れてって。」

「死んじゃうかもよ?」
半分しか開いていなかった目を、もう少しだけ開いて、言う。
「いいよ。向こう行って一人ぼっちじゃ寂しいでしょう?」
「…じゃあ、行くか」
「うん」

生徒指導の先生の目を盗んで、(どうしてあの先生はいつも校門付近にいるんだろう)
さっきまで遠くに見ていた鉄塔の下へ辿りつく。
「…これ、登れないでしょ…」
「大丈夫、梯子ついてる」
そう言って、さっさと自転車を乗り捨てて、梯子に向かう。
「あ、待って…わ、」
突然強い風が吹き、不安定に立てかけた自転車がガタンと倒れる。
「早く来いよー、意外に疲れるんだから」
「…うん、」
自転車をほったらかしにして、梯子に手をかけた。

「この辺でいいか」
何十分登り続けたのだろう、先ほどの自転車はもう消しゴムくらいの大きさになっていた。
鉄塔に足をかけ、一度周囲を見渡してみる。
学校のチャイムが聞こえた。昼休みに入ったところだろうか。
サイレンの音も聞こえる。見下ろすと、真下にはパトカーと救急車が停まっていた。
「私達のこと、誰かが通報したみたいだね」
「迷惑な…。まあいいか、行くよ」
さりげなく手を握り合い、「せーの、で飛ぶ。いいね?」
呼吸を合わせて、

“せーの”