それはある日の放課後のこと。
 屋上のドアを開けると、そこには生徒が一人。ただぼんやり外を見ながら、メロンパンを食べていた。
 煙草を一本、と思っていたのに。仕方なく、そのまま、片桐はドアを閉めようとしていた。
「あれ、片桐じゃん。どうしてこんな所にいるの?」
 見つかった。が、片桐はすぐに言い訳を思いつき、軽く咳払いした。
「教師に対してタメ語はないだろう、冬谷。それに、ここは生徒立ち入り禁止だ。ここに多くの生徒が出入りしていると聞いて、様子を見に来たんだが、お前か。」
 すると冬谷は少し片桐を見て、また空に視線を戻した。
「ここは高いからさ。それに来るのは俺一人だし。」
 ああ、嘘には必ず穴がある、と言ったのは、どこの誰だったか。
「・・・ちょっと空を見に来ただけだ。」
「そうなんだ。俺もここから見る空好き!一緒に見ようよ!」
と、冬谷は笑った。
 確かに、片桐はここの空が好きだ。その上煙草が吸えれば、どんなにいいことか。空と煙草。これで大嫌いな教師という職業も、やっていけているのに。
「でも、空も好きだけどさ・・・」
 やや強引に隣に座らされてしまったので、暇潰しに、冬谷の話を聞いてみることにした。
「本当は、鉄塔の方が好きなんだよね。」
「鉄塔?」
「そ。俺は将来鉄塔になりたいから。」
 なんだこいつ、訳が分からない。
そんな片桐を見つつ、冬谷は話し続ける。
「電線は日本中を繋いでるじゃん。で、それを支えてるのが鉄塔。俺、鉄塔みたいに世界が繋げるようになりたいんだ。」
 どうしてこんな大きな夢が、こいつにはあるのだろう、と、片桐は思った。
 現代の子供は夢がないと、どこかで聞いたことがあるが、本当は、こんな馬鹿こそ大きな夢を持っているのではないか、と。
 自分が何の希望もなく選んだ教師という職業は、本当は、自分のような適当な人間がやっていい物ではないのではないか、と。
 しかし、
「ククククク・・・」
「何だよ、先生!笑うなよ!」
 と、ふくれる冬谷。
 そんな冬谷を見て、その夢を助けてやってもいいのではないか、そう、思ってしまって。
「馬鹿、そんな夢を語るには十年はえーよ!」
そういいながら、冬谷の頭をたたく。
「痛てぇな!余計馬鹿になったらどうすんだよ!」
 騒ぐ冬谷も、笑っている。
 片桐は立ち上がって、煙草に火をつけた。
 煙吐きながら見上げる空は、どこまでも青くて。

鉄塔がきらりと光って見えた。