『五年二組 吉田貴明 「父親について」 皆さんは携帯電話で電話をかける時、呼び出し音が向こう側で鳴っている間はど うしていますか? 僕は繋がるまで耳を離して画面の表示を確かめています。 ですがこの前何となく耳をつけていたら、向こう側で布が擦れたような音が時々 する事に気がつきました。携帯は通じる前からどこかに通じているのでしょうか ? 矛盾しました、話を戻したいと思います。 この前父と家に二人きりになってしまいました。 今まで母と二人きりはありましたが、父と二人きりなんて記憶の限りありません 。 僕は反抗期ではありませんが、そもそも二人きりという状況が苦手なのでとても 気が重くなりました。 父は話し好きですが自分から話すのが好きではないので僕が話し出すのを待って いるのが解りました。 僕は仕方なく携帯電話の向こう側で音がする事を話しました。 正直、理解してくれないだろうと思っていたのですが父は笑って自分も昔似た様 な体験をしたと話してくれました。 父の話によると 父の中学校は田舎と都会のちょうど間に有るような感じで空気が不味くて校庭が 狭くて周りに遊び場がなくて流行りの物を売っている店もない所に建っている男 子校だったそうです。 父はそんな学校が嫌いで授業を抜け出して隣の町や映画館に行っていたそうです 。(ここは母の好きな『苺白書…』とか言う歌に似ているので作り話かも知れませ ん。) そんな中でも一番好きだったサボり場所は学校の屋上だったそうです。 いつもいつも屋上でラジオを聞くうち父は番組に飽きてしまいFMでもAMでもそん ざいしないはずのヘルツ数を聞いて過ごしていたそうです。 そんな中で何も聞こえないはずのラジオから妙な音楽が聞こえる事に気が付いた そうです。 父はその音楽が頭に残り、その音楽がよく聞こえる場所を探し歩いた結果。 高い場所程よく聞こえたそうで我が父ながら単純だと思いますが町の小高くなっ た場所にある鉄塔に登ったそうです。 父いわく最近トキだかコウノトリだかが感電して死んだ鉄塔と同じもので、しか も友人とお金をかけた後に引けない状況で父は登り始めたそうです。 父も子供の頃は僕と同じで小さい方だったので、わりと簡単にかなり高いところ まで辿りつき、ラジオの電源を入れようと両手を離しました。 解ると思いますが両手を離したので父は落ちました。 父は突風に吹かれたとか言っていましたが、最終的に落ちたなら一緒だと僕は思 います。 しかも落ちたと言っても途中で引っ掛かってしまい警察まで出てくる大騒動に発 展したと父は何処か誇らしげに話します。 救いようが無いです。 でも落ちる瞬間確かにはっきりと聞いたそうです。 何かの曲を。 今となっても父はその音楽が何の音楽なのかは解らないそうです。 僕はそれじゃ意味がないと思いますが、父は解らなくて良いものなのだと笑って いました。