「あー、見えねぇ。」 「だいじょうぶ?」 「無理。もう無理。絶対無理。」 拓海はふらふらと目を泳がせて、おれとは全然違う方を向いた。 「・・・海斗?」 おれに触れようとする手は、ただ空気の中をさまようだけ。 「しょうがないなあ、返してやるよ。」 「え、何。そっちにいたの。」 声をきいて、やっと目が合った。 「拓海のメガネうばった時から全く動いてないよ。ちなみにさっき拓海が見てたのは黒板と教卓。」「え、うそ。」 「・・・はあーーー。」 思い切り盛大に溜め息をついてから、そっとメガネをかけてやると、拓海はにこっとほほえんだ。 「ありがと。」 「い、いや、別に。おれが勝手にお前のメガネとっただけ・・・うっわ!」 おれたちの間にある机を完全に無視して、両手でわしゃわしゃとかみをかきまぜられた。 「ちょっと、拓海!やめろって!」 「あっはは、海斗のかみ超やばい。」 「お前がやったんだろ!」 ぎゃーぎゃーとさわいでいた拓海が、突然静かになった。 「・・・。」 「・・・どした?」 おれの前の席に無理に逆向きに座っているから、机の向こう側から少しイスがのぞいている。 「いや…たまにはメガネはずすのもいいかも、なんて。」 「えぇ?」 「だってさ、こうすると・・・。」 カチャ、と音をたてて机にメガネを置いた拓海は、じっとこっちをみつめてくる。 「・・・何だよ。」 「うーん、やっぱりぼやける。」 「あたり前だろ。メガネはずしてんだから。」 そっかー、なんていいながら、身を乗り出してきた。 がっ、と額がすごい勢いでぶつかる。 「いって!」 「わりぃ、わりぃ。」 「もー!ちゃんと気をつけろよ!」 「だから悪かったって!」 口をとがらせて抗議するおれを、笑いながら、やっぱりじっと見つめてくる拓海は、少し怖いかもしれない。 「あのー、それで、何でメガネはずしたんですか。」 「あぁ。んーと、なんていうのかなぁ・・・。こう、何かに頼らずに海斗を見れるってのは、いいもんだなぁ、と。」 教室は凄くうるさいはずなのに、どうしてなのか、拓海のその言葉はやけにはっきりとおれの耳に届いた。 「そうなの?」 「うん、何となく。」 「・・・ふーん。」 何故かはわからないけれど、急に恥ずかしくなって、おれはあわてて拓海から目をそらした。 「海斗?」 「何でもないっ!」 今度はしっかりと、おれのことを見ながら名前を呼んでくれたことに嬉しさを感じて。