兄貴がいない間に。
そっと、それに手をかける。
それの向こうの世界は、少し歪んでいて。
リビングの全ての色が混ざった、気持ち悪いマーブル。
ゆっくりと、でも確実に、それを自分の双眸に近づける。
歪んだ世界が、迫ってくる。
花も。
花瓶も。
テーブルも。
ひやり、と、それが僕に触れる。
とうとう僕は、歪んだ世界に包まれた。

いや、もしかしたら僕も、歪んでいるのか。
僕の心も、同じように……。

辺りを見回すと、赤と黒と、肌色のマーブル。
それがだんだんと広がっていることに、僕は気付く。
ぴちゃ、と、僕の足に触れる、
液体なのだろうか。
一歩後ずさる。
しかし、またぴちゃ、と、足に触れる。

ノミコマレル・・・!

そう思ったとき、僕はそれを顔から勢いよく外していた。
世界が、元に戻っていく。
少し頭がくらくらする。
少し休もう。
僕はリビングを出て、自分の部屋への階段を登る。




でも一つだけ、戻らなかったもの。
リビングのピアノの前にある、それ。
両親の悲鳴を遠くで聞きながら。

恐怖。
悲しみ。
喜び。
快感。
僕の心の歪んだマーブルも、戻らなかったのかな。
ぐちゃぐちゃの兄貴の姿を思い出して、僕は少し嘔吐した。