「――何、コレ」
金森が放り出したものを、水岸は手に取った。
「理科で使うアレだろ」
「うん、ソレソレ」
「えーっと、アレだ」
「うん、アレなんだよ」
「安全めがね、でしょ」
「――うわっ!」
 二人の間に入ってきたのは土辺。学級委員だ(サボリの常習犯)。
「話入ってくんなよ」
「ライター持ってる?」
「え、あーうん」
 水岸の渡したライターで、器用に煙草を点ける土辺。そのまま金森の机に腰かけた。
「――で、安全めがねがどしたの」
 煙をくゆらせながら彼女は二人に問うた。そこで、やっとそのことを思いだした。
土辺がくるとペースが乱れるのだ、いつも。
「いどだどゲームでもしてたの」
「何だ、それ」
「あ、なんでもない」
「は?」
「こっちの話。まあ気にしないで」
 土辺は脚を組んだ。身長の割に長いそれはアンバランスで、だからこそ金森の目を惹きつけた。
「――金森が持ってきたんだよ、なんでかは知らねぇけど」
 無邪気そのものの水岸の声。だよな?と同意を求められたので、金森は慌てて肯いた。
「木島の忘れもん。届けてこいって火山に言われた。次の時間木島せんせー困るだろ!って」
「れんちゃん木島だいすきだからねー」
 からかうように笑うと土辺は机に煙草を押しつけた。
「おい、それ俺の」
「あっ、ごめん」
 たいして悪びれもせず、流し目で笑う。その動作が変に色っぽくてどきっとした。
「ったく」
 金森は頭をかいた。
「というわけで水岸、行って来てくんない」
「えー、なんでオレ」
「頼む、ジュースおごるから」
「…アイスつけるか?」
「つけるつける」
「おし」
 絶対だぞー、と言って水岸は走って教室を出た。かなりの甘党なのだ。
 土辺がぴょこん、と机からおりた。
「…行っちゃったね」
「うん」
 土辺はくちびるをとがらせた。さっきまでの妙な色艶はなくなっていた。
「水岸ってさ」
 金森は切り出す。
「天然、だよな」
「うん」
 うつむく土辺。

知っているのだ。
あれは、背伸びだ。
知っているのだ。
土辺のあの動作は水岸の前でしか行われないこと。
知っているのだ。
水岸がそれにまったく気づいていないのを。
知っているのだ。
それを見て、自分の胸が痛むこと。

知って、いるのだ。
土辺の横顔を見ながら、金森は指を組んだりほぐしたり。何をしたらいいのか分からなかった。
「…おい」
 ポン、と土辺の肩を叩いた。
 振り向かれる。
「今日さ、メシ行くだろ」
「…」
「三人で」
「……うん」
 まあ、いいや。
とりあえず、今日は三人で一緒に帰ろう。