私がまだ小さいとき、一人の赤ちゃんが家に連れてこられた。 そのときのことはあまりよく覚えていないが、知らない女の人が 「ごめんなさい」とか「よろしくお願いします」とか言って すぐどこかへ行ってしまったような気がする。 あとで分かったのは、その子は養子に出されたらしいということだけ。 母にそのことを聞いても何も答えてくれなかった。 その赤ちゃんはすくすくと育って、小学校に上がった頃からか よく近所の人にあまり似てない姉弟だと言われていた。 また、母は弟に対してそっけない返事が多かったように思われた。 そして、今でも鮮明に覚えている、とある夏の日のこと。 私が中学二年生、弟が小学校三年生だった。 「僕は本当におねえちゃんの弟?」 そう聞かれて、一瞬空気が凍りついた。ように感じた。 私は動揺したのを隠すようにして言った。 「そうよ、あなたは私の本当の弟よ。なんで突然そんなことを聞くのよ。」 何があっても弟を傷つけたくはなかった。 (優しさという名の嘘をついた、) 「だっておかあさんはいつもあまり話そうとしてくれないし、 近所の人はおねえちゃんと似てないっていうから。」 「お母さんはいつも忙しいし、似てない兄弟だっているでしょう? 似てなくても姉弟だってことに変わりはないわ。」 そうだよね、と弟はあっさりと信じてくれたので私はほっとした。 と同時に、罪悪感も感じていた。 (でも、これでよかったの。きっと。) 「ほら、早く友達のところへ行って遊んできたら?」 「うん。じゃあ行ってきまーす。」 そう言って元気に家を出て行った。