優しさと言う名の嘘をついた。
あいつのために。
傷つくのは、自分だけだから。



俺とあいつが同じ世界に存在できる場所。
俺たち二人しか使わない通学路。
「なあ、俺なんかと友達で、いいのか?」
俺は尋ねた。
「いいに決まってんだろ!?こんな面白ぇヤツ、なかなかいねえもん。」
ニシシと笑うケイ。
「へぇ。……まぁ、俺もケイと一緒にいれる方が嬉しいし、楽しいし?ありがとな、ケイ。」
「おい、そろそろ学校の近くだ。じゃあ、俺、先に行く。」
俺があいつと一緒に登校するのは、とある理由からできない。
一人で教室に入ると、予想通り、彼らがいた。
「おっ、ヒロシ君が来たぜぇ。」
いやらしい笑みを浮かべて寄ってくる同級生。
「……」
「何、黙ってたって何も分かんねぇんだぜ?」
反抗しちゃいけない。耐えろ、俺。
「あ〜あ、そっかぁ。馬鹿すぎて言葉分かんねぇんだぁ。
 じゃあこの天っ才の俺様が言葉教えてやるよ。」
そう言うと、蹴りを飛ばしてきた。
「……!!」
俺とその同級生の周りにはクラスメートが集まってきており、
はやし立てたり、面白そうに見ていたりした。
声もなく崩れる俺。
「ほら、そういう時は『くっ』とか『うっ』とか言うんだよ。
 ほら、リピート・アフター・ミーッ!」
二発目。
「……」
「はぁ、なぁんでこんな馬鹿なんかなぁ?自分より偉い人には抵抗しない、これ常識♪」
ニヤニヤと笑う観衆。
「おい、もう本鈴鳴るぞ。」
「ああ、分かった。」
そして俺のほうに向き直り、
「じゃあ、また放課後〜。」
「楽しみに待ってな、お馬鹿さんっ。」
俺はその背中をにらみつけ、ヨロリと立ち上がった。

そう、俺は、いじめに逢っている。

標的になった理由は、前の標的をかばったから。
ただ、それだけ。
別に後悔はしていない。
誰かが傷つくのなら、俺が犠牲になった方がマシ。
どうせ俺が解放されれば、奴らはまた新しい『オモチャ』を見つける。
だから俺が傷つけば、それでいい。

そして、午後。
もちろん、それまでも、ことあるごとに攻撃を受けた。
平気、と言えば嘘だ。
だんだん俺の周りに人が集まって来た。
「さ、じゃあ始めよっか?」
軽々しく、例の同級生が周りに声をかける。
それに対して、周りはワァワァとさわぎ出す。
彼は手を上げ、更に場を盛り上げる。
そして、そのテンションがピークに達したとき、
拳を振り上げ、
俺と接触する瞬間。
「やめろ!」
ざわつきが、止む。
その声を発したのは。
「ケイ・・・」
「なんだよ、寄ってたかって。恥ずかしくないのか!?」
しん、と静まり返る教室。
その中で、声を発したのは。

「なんだ、このヒロシ君の友達だからか。
 お前、この俺様にたてつこうってのか。」
「ああ。」
ケイの毅然とした態度を見て、ちっ、と舌打ちをする同級生。
そして俺のほうを向き、
「なぁ、このケイ君はお前の『お友達』だって言ってるぜ?
 実際どうなのよ?」
友達だ、と叫びたかった。
しかし、そんなことをすれば、俺ではなくケイが標的になってしまう。
俺は、それでいいのか?

「いいや、違うよ。どうせそいつの冗談だろ?」
声が震えた。涙があふれてくる。
仕方なく、顔を下に向ける。
ケイがどんな顔をしていたのかは分からない。
しかし、
やっと顔を上げたとき、
そこにケイの姿はなかった。
そのとき、やっと自分の犯した罪に気付き、
気付けば、すでに廊下を走っていた。



優しさという名の嘘をついた。
あいつのために。
そう、思っていた。
傷つくのは自分だけ。
そのはずだった。



標的が逃げ出したというのに、誰も追って来なかった。
高みの見物、かもしれない。
それでも俺は、あいつの名を呼び、走り続けた。

ケイは、グラウンドで、一人、ぼんやりと立っていた。
全てを、拒絶したかのように。
「ケイ!」
俺は、力いっぱい叫んだ。
「……ヒロシ。」
「悪かった。でも、お前を裏切るつもりはなかったんだ。」
「……」
「ただ、お前を巻き込みたくなかった。」
「……」
「本当、ゴメン。」
俺は頭を下げた。
ケイは、何も言わなかった。

その日の夜、ケイが俺を訪ねてきた。
話したいことは山程あった。
しかし、口から出る直前に、また戻っていってしまう。
やっとのことで
「ケイ。」
と呼んでみるが、返事はない。
「なあ」
「お前……」
ケイが話し始める。
「お前、全部一人で溜め込みすぎなんだよ!少しは相談とかすりゃあいいじゃねえか!一人でかかえてても何にもならないって分かってんだろ!?」
そんな口調で話すケイは見たことがなかった。
「…迷惑かけたくなかった。」
「…それはもう聞いた。」
ケイはハァ、と息を吐き、
「俺にも戦わせろ。」
と言う。
嬉しかった。ただ、うなずくしかなかった。

それからというもの、心強い仲間を得た俺は、
相手を負かせるように、積極的に話した。
状況は変わっていない。
それでも、どこかでその火種が広がるのを信じて。
戦い続けようと思った。


優しさという名の嘘をついた。
それは、結局嘘でしかなかった。
嘘は真実を覆い隠す。
それが優しさからだったとしても。

真実を伝えよう。
それが残酷なことだとしても。
真実を受け入れることこそ、
心の強さなんだと、俺は思う。