昼休みに入り、混み始めた社内食堂に新たに四人程社員が入って来る。 「うん、だから社長は『リンダ・リンダ』でしょ、ブルーハーツの!」 浅黄竜介は楽しげに高田良太郎に話しかけている。 「んー、確かにそんなイメージも有るかも。」 良太郎の肯定的な返答に気を良くしたのか、竜介は少し遅れてついて来る一ノ宮にも話しかけた。 「ほら、な?言ったろ?」 「知らん、興味がない。」 「だからー、人間性を歌に例えてる訳よ!」 「安心しろ、お前のバカさ加減を歌いきる事は出来ん。」 冷たいな、と文句を言って竜介は一ノ宮の隣の笹木に相手を変更する。 「笹っちはどう思う?」 笹木はテーブルにつきながらふと思案するように目を伏せた。 「………社長はメヌエット。」 静かな台詞に竜介は面食らったように良太郎を見る。 「喋った…!」 「本当に失礼な奴だ貴様は。」 一ノ宮がすかさず辛いコメントを挟むと、良太郎は苦笑しながら竜介を見上げた 。 「笹木君だって喋るよ、次いでにメヌエットはクラシック。」 「クラシック…!何か凄いな!なぁ?委員ちょ?」 「いい加減、委員長はやめろ。それより飯買いに行くぞ。」 一ノ宮は子供の様にはしゃぐ竜介と、どうしたものかと見守る笹木を連れて食堂の注文口に向かった。 「ん?お前またコンビニ?」 「うん、何か習慣で。」 竜介はうどんを食べながら良太郎のコンビニ袋を覗き込む。 「何?シール集めて絵皿でも貰おうってか?計算高いねぇ!」 「言いがかりつけんなよ…」 一ノ宮は溜め息をつきながら唐揚げを一個、自分の口に放る。 「今は絵皿、ランオウマンだよ?」 「え?嘘?マジで?哀と有機だけが友達の有精戦士?」 「やけに詳しいな。」 竜介はにんまりと口の端を上げた。 「俺だって企業戦士だからさ!」 「………戦士繋がり。」 笹木が説明を入れるが意味が解らない、と一ノ宮は不快そうに食事に戻る。 「で、さっきの話だけど。一ノ宮は蒲田行進曲じゃねえ?」 「あぁ…キーネーマーの世界ー♪ってやつ?」 「キネマ?」 一ノ宮は煩わしそうに竜介を見ながら問う。 「………シネマの意味だ。」 笹木の助けに一ノ宮は嬉しくも無さげに頭を下げる。 「ならお前は花の子ルンルンのテーマだ。」 「ばっか、俺はランオウマンのテーマだよ!」 「大差無いなぁ…」 三人のやり取りを静かに見ていた笹木はまた静かに口を開く。 「………一ノ宮はガラモン・ソング。」 聞き慣れない曲名に一ノ宮と竜介は言いあいを止めて笹木を見た。 「あー確かテレビの、世にも奇妙な物語のテーマだよね。」 良太郎が言うと笹木はゆっくり頷いた。 「あー良いねぇ!タモさんだ!タモさん!!」 「黙れ。」 一ノ宮は苛々とコップの麦茶を飲み干した。 「んーじゃあ笹木はアレだ!アジカンの無限グライダー!! いや、ゴダイゴのガンダーラか?」 竜介は楽しそうに箸を笹木に向ける。 「浅黄君は何かおしりかじり虫のイメージだね。」 良太郎は同意を求めるように笹木を見た。 「はぁ!?ならお前はどんぐりコロコロどんぐりこ♪だ!」 子供の様に騒ぐ竜介の姿に溜め息をついて一ノ宮はトレーを持って立ち上がる。 「もう昼休み殆んど無いし引き上げるぞ。」 「ういっす!」 トレーを戻しぞろぞろ部所に戻る途中、最後尾に居た笹木に良太郎が寄って来て話しかける。 「僕らの総評に笹木君ならどんな歌を選ぶ?」 笹木は軽く視線を下げる。 「………素人のハレルヤ・コーラス。」 言ってから笹木は少し笑って続ける。 「第九では駄目だ…。」