手を繋いで歩く、学校からの帰り道。右手から伝わるぬくもりに愛しさを感じながら、地夜はためらいつつ口を開いた。

「…ねぇ、玖白。もしも僕が、いなくなったなら…君はどうする?」

玖白は意味がわからないとでもいうように、首をかしげる。

「その時君は…やっぱりいいや。なんでもない」

地夜は途中でことばをのみこむ。顔には今にも消えてしまいそうな頼りない笑みがあり、それは本当に微かで。なぜだかその質問に答えなければ彼が本当に消えてしまいそうな気がして、咄嗟に口をひらく。

「探すよ」

少し声がかすれた。

「地夜が、もし何か理由があって私の前からいなくなったんだとしても。名前を呼んで、必ず探して、絶対絶対みつけるよ。みつけて、…怒る」

何故こんな簡単なことを地夜は聞くのか。玖白はだんだん腹が立ってきた、けれど。 


「怒る、の…?」

心底不思議そうな顔をする地夜にそんな想いを抱くのもばからしいと思い、同時に本当はさみしいと感じていた心に気づく。

「…地夜はばかだよ。誰だっていちばん大切な人においていかれたら、悲しいに決まってる。待っているだけとか、祈っているだけなんてできない。自分で見つけだしたいんだ。…大好きだから。なんで一緒に連れていってくれなかったのって、怒るよ」

じんわり目じりに涙がうかぶ。自分の好意は一方通行の想いだったのかと思うとやるせなくて、そんなことを考える自分が情けなくて。知っているのだ、彼は好きでもないこに"すき"と言えるほど器用じゃないと。信じていいのだと。それでも、一時でも疑ってしまう自分がいやで。地夜の顔を見ることができない。

「玖白」

自己嫌悪に陥っていると、名を呼ばれた。その声は、あまりに穏やかで優しくて。そう、負の感情なんて簡単に溶かしてしまうくらい。

「ありがとう」

地夜は玖白をきゅっと抱きしめた。玖白はふと、地夜の腕の中は春の日だまりみたいに暖かくて、ここが自分のいちばん安らげる場所なんだと、とりとめもなく考えた。

「僕、ね、わからなかったんだ。もし君の世界から城崎地夜という存在がなくなる時、僕はどうするんだろうって。どうするべきなんだろうって」

地夜の声が、玖白の頭一つ分上から降ってくる。そしてそれはたぶん、玖白が覚えている限りでは初めての地夜の弱音。

「僕がいなくなる時には、一緒にいなくなってなど言えるはずない。君が狂ってくれると思えるはずない。そう考えていると、君のその優しい顔が僕を喰い千切って。あのままじゃ、僕はだめになっていたかもしれない」

悩ましげに語る地夜がなんだかおかしくて、場違いとは思いつつ玖白は呟く。

「地夜、かわいい」

地夜はくすりと微笑む玖白に、かわいいのはどっちだと言いたいのを堪える。

「…玖白、僕は真剣に悩んでたんだからね」

頬を染め、目を逸らして言う地夜は拗ねた子どもみたいで。口からすんなりことばがでてくる。

「だけど、もう心配いらないでしょ?地夜がいなくなるときには私も連れていって。それが私の願いなんだから」
「…本当に?」
「もちろん」
「殺人犯になって逃げようとしていても?」
「私ができるすべてを尽くして、一緒に逃げる」
「二度と日の目を見られない所に行くことになっても?」
「地夜が抱きしめてくれるなら、どこでもいい」
「幸せになれないかもしれないよ?」
「大好きな人の傍にいられること以上の幸せなんて、いらない」

二人はいたずらっぽく微笑みあい、再び歩きだした。



──貴方は名を呼び探してくれる?──