「お兄様、おやすみなさい。」
 
 
 
とは言ったものの、一つ気になっていたことを聞いてみる。
「…お兄様は明日も早く帰ってくるのよね?」
 
私がそう聞くとお兄様はだまってしまった。
 
「ねえ、帰ってくるわよね?」
 
「…そんなことより、早く寝た方がいい。明日になったら、枕元に素敵なものがきっとあるはずですよ。」
 
「え!プレゼント!?」
 
「欲しいなら寝てくださいね。おやすみなさい。」
 
そういって私を寝かしつけお兄様は部屋を出ていった。
 
明くる日の朝、目が覚めるとそこには……
* * *
「また…。」
 
この夢を何度見たことだろう。
実際に起きてしまったこの夢を。
 
「お兄様のせいだわ。」
 
あんなに頼りないのに、どうしてそんな遠くへ行ってしまうの?
それだったら私がついっていった方がよかったのに。
 
あの時のことを思い出しているとき一番最初に感じるのは後悔。
お兄様を止めていればこんなことはなかった。
 
ベッドの横の、いすの上には一人の子供ぐらいの大きなテディベアがおいてある。
 
それは、お兄様が私にくれた最初で最後のプレゼント。
 
その日は、夜が明けるのを心待ちにして眠りについた。
 
次の日の朝、目が覚めるとそこには大きなくまのぬいぐるみがあった。
うれしくてお兄様にお礼を言おうと、それをかかえて居間へ行ったけれど、
そこにはもういなかった。
 
「お兄様はどこ?」
 
「もう行ってしまったわ。それより、そのぬいぐるみはどこからもってきたの?」
お母様に聞かれたことにも答えず、私は自分の部屋に戻ってしばらくの間泣いた。
まだ小さかった私は大好きなお兄様がどこかへ出かけてしまうのも嫌で、当分の間会えないこの状況をうらんだ。
 
お母様には何度もたった3ヶ月だからまたすぐに会えるわよ、となぐさめられたが、
それでも泣いたり外へお兄様を探しに行ったりして両親やお手伝いさんを困らせた。
 
結局、お兄様は帰ってこない。
生きているのか死んでしまったのかすらわからない。知ることもできない。
きっとなにか事情があるのだろう、そう思って両親に聞いたが答えてくれなかった。
 
もう、お兄様には二度と会えないかもしれない。