人の姿もまばらになった商店街を長身の男が大股で進んでいく。

手に一升瓶の入ったビニル袋を下げた男は目付きが鋭く、堅気には思えない雰囲気をかもし出している。

しかし正真正銘の一般人で、まだ二十代ながら店長代理としてパチンコ屋の二階に住むこの男は森井と言う。

次いでに言えば森井が自らのアパートの有るこの町に帰って来るのは珍しい事だった。



森井は角を左に曲がりながら手にしたライターで煙草に火をつける

しかしほとんど吸わずに携帯灰皿を開くと煙草を揉み消した。

「大家の野郎…。」

森井が低く唸るのと同時にアパートの明かりが民家の塀越しに見えた。



今日森井がアパートに帰って来たのは明日から店が五連休には入り、店で寝泊まりが出来ないからだった。
かと言って明日から先用事が有る訳でもないので久々に酒でも飲み明かそうと思ったが、森井は大人数で飲むのが嫌いだ。

だから店の若いのを誘う気にもなれないが一人酒も好かない、なのでアパートの誰かを捕まえて飲む気であった


そこで誰にしようか考えた結果大家に狙いを定めた訳だ。

別に真上に住む進藤でも良いが、絶対に金を払わずタダ酒を飲むタイプの男だ。
その点中々酒家なあの大家なら家に一・二本は酒がストックしてあるだろうから、土産の酒を見せれば自分の酒も出してくる確率が高い。

そう思い酒を買って駅の方へ歩いていた森井は不動産屋に張り出された物件の中に自分の住むアパートと隣接するアパートを見つけた。
どうやら全て売れた様であったが、其処に森井は不可思議な記述を見つける。

家賃三万




「ふざけやがって!二年間ずっと家賃二万多く請求してたんじゃねえかぁ!!」
酒が無駄になった様な気がして苛立ちがおさまらずアパートの正面入り口を蹴破らん勢いで開けた森井は、咽に侵入して来た煙に激しく咳き込んだ。

「何だこりゃ…」
夜にもかかわらず視界が白い。
「誰か料理でもしてやがんのか…。」

森井は廊下の窓を端から開けて煙を逃がす
このオンボロアパート最大の欠陥がこれだ。

換気扇が通路側に付いているせいで誰かが料理をするとアパート中に煙が充満する。
少し考えれば解ったろうに…
「しっかし、この煙の量は異常だな他の奴等は何してんだ…一体何処の部屋からだぁ?」
独特の間伸びした口調が一瞬凍り付いた。

煙の出所は103号室
森井の部屋だ。

鍵を開けると中も焦げた臭いが充満していた。
煙の向こうで白い物が鍋を振っている。
「あ!おかえりなさいアナタ!」
白装束に鮮血流れる唇。
「パナウェーブ研究所…?」
「ちょっと飛び過ぎだわよ。」

よく見ると流しには白装束の女の握っている鍋と同じ様に黒焦げになった料理器具が溢れている。
「何だてめぇ…」
「誰だ?じゃなくて何だ?なのね…。」

女はふふっと不敵な笑みを漏らす。
「私は…って何!?」
森井の足が足払いするように女の真下を通過した。
「幽霊ってやつか…酒は飲めるのか?」
一升瓶を戸棚にしまい込みながら森井は動じる事無く問う。
「えぇ…まあ。」

「それなら問題ねぇ、大家ん所で酒せびるから罪滅ぼしに付き合え。」
「罪ってなんの罪よ?
それ以前に驚かないの?」

森井は一旦背を向けた幽霊女の方を振り向いた。
「人ん家に勝手に上がって家財燃したんだから罪は有るだろうよ。
ってかそうそう驚いてらんねんだよ、こちとら変な知り合いが多くてなぁ。」
 
森井はそう言ってアパート同士の間に有る一軒家を目指し自分の部屋を出る。


とりあえず明日は休日である。