「……マスター、起きてくださいマスター。」 「林檎かい?……今は?」 「もう十時ですよ!」 鬼灯はきょとんとしたように瞬きをして目の前にいる少女を見上げる。 そして自分の腕時計を見て呟いた。 「まだ九時にもなってないぞ。」 * 「マスターごめんなさいっ!」 「いや、あと三十分眠れたのにとは言ってないじゃないですか……。」 「やっぱり根に持ってます?」 「いいえ、別に。」 鬼灯は苛立った様子を見せていた。 様子なだけで実際に苛立ってはいない。 ただ住み込みでアルバイトをしている目の前の少女を無性にからかいたくなる時があるのだった。 「本っ当にごめんなさいっ!!今度は二度時計を見てから起こしませんから!」 「……言っている事があべこべだよ?」 「私の中では繋がってるんです!私B型なんで……」 雇い主に謝る時に自分の血液型を引き合いにする部下が居るであろうか。 いや、いない。 鬼灯はそう結論づけた。 「もういいよ。さて、開店準備だ。林檎、準備して。」 「はい、マスター!」 元気な返事が返ってくる。 鬼灯はその返事だけで息を吹き返すような思いを抱いていた。 ただそれは恋心というものでは無い。 きっと彼女の持つほのぼのとした空気のせいだ。 いくら自分の心が荒んでいようと、彼女は荒れ果てた土に水をくれる。 そんなところに鬼灯は好意を抱いていた。 「まあ……でもそんなに人が来る訳じゃないんだがね。」 「実は私もそう思ってたりします。」 林檎の声は鬼灯に届いたのだろうか。 普通のマスターに届いていたのなら林檎は大目玉をくらっていたかもしれないが、鬼灯はただのマスターじゃない。 非常にデキた機械である。 機械というのはあくまで例えだ。 正確に言おうとすれば、正確にプログラミングのされたアンドロイドのようにしっかりしている人間、という事である。 「今日はもしかしたら機械がくるかもな。オレンジ色したアンドロイドが油を求めて。」 「マスター、なんかこう……もっと詩的な表現は出来ないんですか?」 「じゃあ林檎がやってみな。」 からかうように鬼灯は言った。 そうですねえ、と林檎は呟く。 「橙の背に負うものは哀しみか 物を想いし人造人間」 どうですか! そう言わんばかりに林檎は鬼灯を見上げる。 鬼灯はぼそっと呟いた。 「主旨がずれていないかい?」 そしてそれは詩的なのかい?と。 二人しかいないカフェのそのカウンターには彼女が出したのであろうグラスがぽつり。 彼女に忘れられたかのように置かれていた。 そしてその中には四角い氷とオレンジジュース。 カラン、と音をたてる。