中間テストが終わった日の午後、私は開放感に満ち溢れていた。
部活もないテストも終わった、おまけに明日は休日で授業も無い!
足取り軽く、近所の古本屋へ向かう。
 
「よっす」
「……ああ、あんたか」
「相変わらず酷いな…」
「あんまり長い間見かけないから死んだのかと思ってた」
「……中間テストってやつだよ」
 
口では酷い事を言っているが、その顔が柔らかく、
私の望んでいたものであることを、うれしく思う。
 
「今日は、何がお望みで?」
「ん、じゃあ…なんかミステリーっぽいのを」
「はいよ、ちょいまち」
 
いかにもな紺色のエプロンに手をつっこみ、本棚の奥へ消える。
数分もしないうちに、数冊の文庫本を持ってきた。
 
「これ、俺のオススメ」
「じゃこれ下さーい」
「600円ね」
 
会計を済ませ、鞄にそれをしまいこむ。
 
 
 
「、そうだ、誕生日おめでとう」
店を出ようとしたとき、ギリギリで思い出した。
 
手に持っていた紙袋をカウンターにトサリ、
「たいしたものじゃないけど、まあ学生ってことで許してよ」
「…あんたにしては気が利いてる」
前髪が邪魔で目元が見えないけれど、
紙袋を見つめて微笑んでいるということは、喜んでいるんだ。きっとそうだ。
「んじゃねー。また来ます」
 

次の日、駅前の本屋で彼に会った。
「あ、こんちは」
「! …よう」
会話を続けようと思ったのだが、彼は挨拶だけするとそそくさと立ち去ってしまった。
 

3日後、私は読み終えた本を抱え古本屋に走る。
「こんにちはー。これの続き下さいなー。」
扉を開けると、カウンターには誰もいなかった。
「悪い、こっち来てくれー」
その代わりに、本棚の奥から声が聞こえてきた。
 
大方、また本棚の本が崩れそうになってて手が離せないだけだろう。
客に助けを求めてどうする。
 
「なにやってん、の…」
「いや本棚が倒れそうなんだよ、悪いけどこの本押さえててくれ」
 
 
 
紺色の物体がいるところを想像していたのが間違いだった。
まさか着てくれるはずないと思っていたのだ。
 

「…はー助かった。ありがとな、」
「どういたしまして…」
「それと、これ」
「うん? 何?」
「それの続き。それ欲しくて来たんだろ?」
続きだといわれた本の袋は、駅前の本屋のものだった。
「やるよ。エプロンの礼だ。」
 

この間会った時に買っていたのはこれだったのか。
「ありがと」
 

黄緑色のエプロンは、彼にとてもよく似合っていた。