ここは広い広いトウモロコシ畑。

湿気を帯びた西風が畑を横切っていき、トウモロコシの細長くしなやかな葉をゆする。さわさわと、トウモロコシ畑全体はさざなみのような音を立ててゆれた。

時刻は夕方だった。

金色のやわらかな光が辺りを照らして、地面にぼんやりとした長い影を映していた。

ふと、畑の、人の背丈ほどもあるトウモロコシ達の中から、一人の男がひょっこりと姿を現した。

男は畑の守り主だ。

今日も、このトウモロコシ達の世話をし終えて、家路につかんとするところだった。とはいえ、家は畑のすぐ近くの原っぱ、畑のそばにあるも同然の場所なのだけれど。

男は顔の汗をぬぐって、ついさっきまで自分が中にいた畑を眺めた。

夕日が逆光となって、トウモロコシ畑を影絵のように黒々と見せていた。

再び風邪が吹いてきて、畑がゆすられる。男の顔にも風邪が当たり、つかの間、額に頬に、ひんやりとした感触を覚えた。

どのトウモロコシもしっかり大きく育ち、それぞれが大きな実をつけていた。今年も豊作なのだろう。男ははじめて笑みをこぼし、畑とは反対方向にある、小さな小屋へと歩いていった。底が男の住み処だった。


畑のわきの原っぱには、折りたたみの粗末なテーブルといすがあった。

金色がかっていた陽光はいつの間にやら赤く染まり、空はこれから暗くなろうとしていた。

男が原っぱへと歩いてきて、いすにどっかと腰を下ろした。男の両手にはそれぞれワインの瓶とグラスがにぎられていた。

クラスがテーブルに置かれ、瓶からワインが注がれた。

ワインレッドの液体が、赤い夕陽にきらめく。

何とはなしに畑のほうを見やると、真っ赤な太陽を背に、トウモロコシ畑のシルエットがたたずんていた。もう風は吹いてこない。トウモロコシ達は微動だにせず、静かにそこにたたずんでいた。

父親も、その親も、そのまた親もまた、この畑の持ち主であった。代々受け継がれてきたこの土地では、絶えることなくトウモロコシが作られていた。これからも、ずっとトウモロコシが作られていくのだろう。

(そろそろ、嫁さんもらわなきゃなぁ)

若い男はそう思い、はにかむようにまた笑った。

グラスを口元へと運び、傾けた。

透明なグラスと、深みのある赤い色をしたワインだけは、影を作らず、ただ陽光を反射して、きらめいていた。

東の空は、もう暗かった。