都市部から少し離れた町に、ある大きな屋敷があった。
これはその屋敷にある部屋でのお話。

 * * *

この屋敷に住んでいるうちの一人に女の子がいた。
彼女には両親が居なかった。
そこで、かわいそうに思った遠い親戚が彼女を引き取った。
彼女は両親の死によるショックでいつまでたっても口がきけず、親戚も世話をすることに疲れ、
とうとうある部屋に彼女を閉じ込めてしまった。
何年も使われていなかった真っ暗な部屋には、古いアンティーク調の時計があった。
そして昔の主人が集めていたと思われる数百もの人形が並べられていた。
不気味なほどに、その人形たちは目を見開いて微笑んでいる。
その中に、一体だけ壊れているものがあった。
そのビスクドールには、腕が片方ない。
彼女はそのビスクドールを手にとった。
次の瞬間、それは宙に浮いた。
そして暗闇から声がした。
「貴方、どうしてここへきたの?」
でも、彼女は何も言えない。
「話せないのなら、心の中で答えなさい。そうすれば私に伝わる。」
(私、ここへ自分から来たわけじゃない。)
「あの人たちに連れてこられたのね。」
(そう、ここに閉じ込められてしまった。)
「貴方はどうしたいの?外へ出してあげましょうか。
それとも、ここでずっと過ごすの?」
(外へ出たら、怒られてしまう)
「いいじゃない、そんなことはどうでもいいの。」
(でも、おじさんもおばさんもいい人だった。)
「あら、結局は貴方を閉じ込めに来たじゃない。どこが良い人なの?
人に言われたことをすべて守らなきゃいけないってわけじゃないわ。」
(でも…)
「大切なのは貴方の意志。選ぶのは貴方よ。」
(私をここから出して。)
「いいわ。その子に頼めばどこへでも連れて行ってくれる。」
その子と呼ばれたのは、普通ではありえないくらい大きい蝶。
模様も何もない、漆黒の羽を持っていた。
女の子は、いつの間にか人形ほどの大きさになっていた。
「何処へ行きたいの?」
(どんな所でも行けるの?)
「えぇ。何処へでも。」
(私の両親のところへ連れて行って。)
「そこがどんな場所でもいいのね?」
(お父さんとお母さんが居ればいいの。)
「…そう。なら連れて行ってあげましょう。」
蝶は女の子を乗せて真夜中の暗い空を飛んでいった。
時間の合っていない古い時計が、終わりを告げるかのように鐘を鳴らす…。