「俺は、違う世界から来たって言ったら、信じる?」
園崎君はまっすぐ私を見て言った。
―正直言って私は迷った。
園崎君は至って普通の男の子ではあったけど、ごくたまにどこか儚い、この世のものでない目付きをすることがあったから。
「来たの?違う世界、から」

こういう返しが卑怯であるということぐらいはわかっているのに。

「ううん、ただ違う世界に帰りたいと思うから」 
その否定と『帰る』という表現は矛盾しないのだろうか、なんて考えてしまう一方で、 

「早く帰れるといいね」 

私は安易に彼を肯定した。 

その見開いた、目。 
「―信じるのか?」 
「嘘なの?」 

いや、ちがうけど、ああそうか。とかなんとか園崎君が言って。 

今度は私が目を見開く番だった。 
「お前も俺と一緒か」 
「え?」 

「早く帰れるといいな」 

私は一瞬意味がわからなかったのだけど、その『帰る』という響きはやけに甘美な囁きで、思わず私はうなずいたのだ。 




園崎君が屋上から飛び降りたのはそれからわずか3日後のことだった。 
先生がそれを告げたその日、 
私は自分のロッカーに白い封筒を見つけた。 
『―へ。』 
宛名には私の名前が書かれている。私は迷わずそれを開封した。 
『俺はやっと向こうへ帰ろうと思います』 
手紙はそう始まっていた。
その後には彼が向こう側を考え始めた経緯やら何やらが綴られて、 
『俺はどこかで向こう側のことを疑っていたのかもしれません。でも、―のおかげで確信が持てました。だから今、向こうへ帰ることができます』 
と言うようなことも書かれていた。 
私も早く帰れるように祈ってる、とも。 
そして、ありがとう、とお礼が述べられ、私は見た。 


一番最後。 


便箋の一番下の行に綴られた言葉を。 



『追伸』 






『俺の体は重すぎるのでこちらに置いていきます』 




衝動的に私は屋上へ駆け出した。 
飛び降りがあった後だというのに、何故か鍵は開いていた。 
躊躇わずにフェンスを乗り越え、私は下を見る。 


ここで園崎君は、向こう側へ旅立った。 


私は指で封筒を千切る。 
ちぎるちぎるちぎるちぎるチギルチギルチギル千切る千切る千切る契る。 
白い花弁が砂混じりの風に舞って飛んでいく。 
それは、さながら追悼だった。 
そして、事実私からの別れだった。 


おめでとう、園崎君。 
そしてごめんなさい。 






―きっと私は、向こう側には行きません。