私のバランスは、世界の気分によって決まる。 雲に覆われた世界では押し潰されそうになるし、 どこまでも晴れやかな世界ではなんでもできるような気がする。 でも、今日は 雨。 暗い 暗い 雨。 (今日も雨か…) 梅雨。私の一番嫌いな季節だ。 スーパーでの収穫物(これで一週間は生きていける)を両手にぶらさげて、傘を掲げぶらぶら歩く。 明日の講義行きたくないな。 雨の日は何もやる気がなくなる。 「あれ? 比留川?」 ふと名前を呼ばれて振り返るとそこには、 「久藤…何してんの?」 手ぶらでぶらぶら歩いてる男がいた。同じ大学同じ学部だ。ここら辺に住んでいるとは聞いていたけれど。 「散歩」 「は? 今何て言った?」 ありえない言葉が聞こえてきた気がして聞き返してしまった。 「だから散歩だってば。ウォーキングアラウンド」 「こんな雨の日にぃ? 頭おかしいんじゃないの」 「なに、今日不機嫌なの?」 目をぱちぱちさせて久藤が尋ねた。そんなに無愛想だったかしら。 「雨は嫌いなのっ」 「ああどうりで。比留川こういう天気の時はいつもテンション低いもんな」 そうだよ。じめじめしてて、暗くて、 「でも俺は好きだな」 「……へ?」 「こういう雨の音に耳を澄ましてみたり、冷たい空気吸ったり」 ちょっと耳を傾けてみると、そこには雨に包まれた世界がいた。 母親の腕にくるまれるようにして立てる小さな寝息。 「久藤って、」 「お、理解してくれたか?」 「ほんと変な奴」 「んなっ…!」 ほんと、変だ。 いつも今日みたいな日には私のバランスはめちゃめちゃで、重心を、安心できる場所を探して、ただただ眠る。 雨に、包まれて。 でも何故か今日は雨の音と匂いとが重なって私を安心させてくれる。 それは、久藤がいるからなのだろうか。 「まあいいや。うち来る?」 「は? いきなりどうしたの」 「だって雨の中に久藤がいるって想像すると気分悪いじゃない」 「何だそれ」 さっきのつまらない話のお礼にお茶でも淹れてあげよう。 私のバランスがちょっとずつ変化する。 (そして、重心は失われる)