ある日、僕は不思議な女の人に会った。
僕は、濃い霧の中にいる。
おかしいな、さっきまで公園にいたはずなのに。

「ねぇ、あなたはこの世界にあるものすべてにかたちがあると思う?」

その人は僕にそう問いかけた。
すごく長い髪を垂らしていて、薄い色の着物を着ていた。
今にも消えてしまいそうな、とても儚い、そんな雰囲気の人だった。

「よくわからないな。」

僕はそう答えた。

「そうね、あなたはまだ幼い子供だものね。」

その人は言った。

「人にとって、“かたち”のないものを認識するのは難しい。
 でも、あなたなら分かるでしょう?カタチのないもの。」

「…どうかな。」

僕は曖昧に答えた。

「そのうち分かるはずだわ、きっと。」

その人は僕を見て言った。

「カタチなんてどうだっていいのよ。
 そこにいる、そこにある、って誰かが思うことが大切なの。
 存在してるって信じてくれる人がいればそれでいいの。」

少し寂しげな表情で、その人は僕に言った。

「だから、あなたは覚えていて、この時を。忘れないで、私と話したこと。」

着物の裾を翻して向こうへ歩いていき、その人の姿ははいつの間にか見えなくなっていた。
そしてだんだんと霧が晴れていった。

 *

「どうしたの?」
僕の友だちが話しかけてきた。
気がつくとここは僕がよく来る公園で、友達が不思議そうに僕を見ている。
「長い髪の、着物の女の人と話してた。皆も見てただろ?」
「え、誰も居なかったよ?突然黙りこんじゃったから、どうしたのかなって。」
「僕、ずっと話してたじゃないか。」
「んーん、ずっとお空のほうをみつめてた。」

なぜみんなには見えなかったのか。なぜ話していたことが聞こえていなかったのか。
そうか、濃い霧があったせいか。それにしても…。
カタチがない、とはこのことだろうか…?
あの女の人は誰だろう、なぜ僕に話しかけたのだろう。
なぜだか、とても悲しい気持ちになった。