ぼくには羽がある。
飛ぼうと思えばいつでも飛べるし、取り外しもできるから学校にも普通に行ける。
周りの人は羽なんて持ってない。
ぼくだけが持ってるんだ。

「さよーなら」

終業の挨拶と共に教室を出て、ぼくは足早に階段を登る。
大事な約束があるんだ。

「あ、先輩」
「やあ、早いね」

屋上のフェンスにもたれていたあいつが近づいてくる。
ぼくは早速鞄を開けて、真っ白な羽を抱き上げた。
あいつがごくりと息を呑む。
片方をあいつの背中に寄せると、ふわりとついた。

「わあ」

ぼくもいつものように羽をつける。
身体が軽くなり、ぼくは空を見上げた。

「ついておいでよ」

勢いよく建物を蹴る。
身体が宙に浮き、ぼくは空を飛ぶ。
瞬間、がくんと視界が揺れた。

「あ、」

スローモーションの映像をみているようだった。
窓に映ったぼくが落ちていく。
(そうか、羽は片方じゃ飛べないんだ)
その時、ぱしっとあいつがぼくの腕を掴む。

「だめです、‥いなくならないで」

ぶわっと下から風が吹き、ぼくらは浮き上がった。
頬を撫でる空気が気持ちいい。

「すごい‥」

アリみたいに小さい人間を見下ろしてあいつが呟く。
ぼくはこんな高くまで上がったことはなかった。
いや、上がれなかった。

「きれいだな」

放課後の太陽がぼくらを染める。
眩しくてぼくは手をかざした。

「‥やっと夢が叶いました」
「え?」
「ずっとこうして空を飛んでみたかったんです」

あいつは目を細めて笑った。
その声がぼくらの空間にやわらかく響く。

「もっと高く飛ぼうか」

ぼくらは空を目指した。
どこまでも広く、青い空を。