「ここで出会った時の事、覚えてる?」
立ち止まった俺の言葉に彼女は首を傾げる。はらはらと落ちる花びらを払って、ええ覚えてるわよと言った。視線を宙に上げ、たしか三回目のデートだったけどと指を折る彼女。
「彼氏と花見に来て、けど滅茶苦茶混んでて嫌になってこっそり逃げた。で、人波に流されてたら逞しい腕に支えられた」
それがあんた、と彼女は俺を指差した。結構な遊び人だなこいつ。まあ人のことは言えないや、と俺の方も白状する。
「俺も同じ様に女から逃げて、で、あんたに会った。振った直後にってのもどうかなと思ったけど、なんだか」
「どうでもいいわよそんなの」
振り向くと、彼女は桜の幹に背をつけていた。月の光を浴びた彼女はなんというか、有体に言えば綺麗だった。
「良かった、出会えて」
俺はなんとも言えず居心地が悪くなって、でも否定する気はさらさらなかったからこう言った。
「……夜桜、綺麗だな」