その店は大通りを一本外れた、奇妙な路地にあった。 店内に一歩踏み出した途端、背の高い本棚が、僕を出迎える。 古びたドアが後ろでぎこちなくしまり、店全体が軋んだ。 本屋……にしては古すぎる。 「―すみません、雨宿りさせてもらってもいいですか?」 誰もいないようだったが、そう声をかけると、奥の暖簾から店員が現れた。 まだ若い女性だ。 明るい髪色と垢抜けた顔のせいか、この店より大通りの喫茶店にでもいる方が似合いそうだったが、 落ち着いた瞳のせいか違和感は感じない。 「いらっしゃい。ええ、どうぞ。」 店員ははにかみながら、僕に椅子を勧めた。 「雨が降ってきていたんですね。気づかなかった。奥にいたものだから。」 そういってカウンターの中に腰掛け、店員はそれきり黙った。 この店は雨の音がやけに響く。 僕は窓の外をちらりと見て、店内に視線を戻す。 背の高い本棚の群れは今にも崩れそうだったが、埃っぽさはない。 掃除だけはきちんとしているらしい。 「ここは、何をなさっているお店なんですか?」 「古本屋です。こんな若い方が来るのは珍しいですよ。」 古本屋。というより古書店だろう。勝手なイメージだが古本屋というのはもう少し人の往来がありそうだ。 「それにしても、どうしてここへ?雨宿り、にしては大学からも駅からも離れてますし。」 「それが、ちょっと余裕があったもので、近くに出来たっていうアーケードに行ってみたんですけど、抜けたら雨が降ってて。」 僕はハハ、と笑った。 店員は少し考えて、 「戻ればよかったのに。」 「それも考えたんですけど、どうも人混みは苦手で。」 店員はまたニコッと笑った。 「ちょっと、本を見てもいいですか?」 「どうぞ。大したものはありませんけど。」 本棚には、所謂ハードカバーから紐綴じまで、様々な本が並んでいた。 本は古いのだが、しっかりと叩きがかけられていて、やはり埃一つない。 「この店は、お一人で?」 僕は本を手にとって、流し読みをしながら、尋ねた。 「父が店主なんですけれど、父のいない間は私が店番をしているんです。」 ふたたび、静寂が訪れる。 僕も彼女も、それぞれに本を読む。 特別ではないけれど穏やかで、ほっとする時間。 その時はあっという間に過ぎて。 「雨、止んだみたいですよ。」 ふと目を上げると、店員が横に立っていた。 本当だ。彼女の後ろから弱く日が差し込んでいる。 「すみません、ありがとうございます。」 僕はあわてて本を棚に戻した。 いったい何時間くらいいたんだろう? 一瞬とも永遠ともとれる長さだった。 「じゃあ、また。ありがとうございました」 店員は笑顔で、見送ってくれた。 外に出れば、綺麗な夕陽が出迎えてくれて。 ああ、こんな景色もまだあるんだなあ、なんて思う。 雨宿りに来よう。 また雨が降ったら。