「愛してる」 彼女は魚型クラッカーの袋を抱え、胡座をかき、雑誌を読みながらそう言った。 「もう少し真面目に言ってくれたらなー」 僕は向かい側に座っている彼女に言う。 「真面目だよ?」 そう言って、彼女はオレンジジュースを飲んでいる僕の方を見た。 僕が彼女に文句を言ってやろうと、口を開いた瞬間、 「あ!」 急に立ち上がった彼女は、クラッカーの袋を抱えたまま目を輝かせ、 「ベランダ!」 ぱたぱたと僕の後ろの窓へ走っていき、ベランダへ出る。 「夕焼け!」 見れば、窓枠いっぱいに橙色の空が拡がっていて、 綺麗だとしか言い様がないその色を、彼女が美しく身に纏っていた。 「綺麗だね」 彼女に声をかけ、ベランダに出る。 僕にも橙の衣が素早くかけられて、 さっきのほんの少しの苛立ちなど、夕日と一緒に焼け落ちてしまった。 「うん、綺麗」 彼女がそう言って、魚型のクラッカーを空に放せば、 クラッカーの魚は楽しげに、オレンジの中を泳いで行った。