朝起きたらリビングには藁で出来たような感じの籠に、食べられるのだろうか、 という疑問を持つくらい黒くなったバナナが一房置かれていた。 『バナナミルク』 (きっと食べられないことは無いと思うけど、実に遠慮したい!) 「なぁ、これ昨日迄は無かったよなぁ?」 「あぁ……あれ。」 僕のちょっと後に目を擦りながら起きてきた彼女。同棲してもうかれこれ二年に はなる。 「朝ご飯の代わりに食べようと思ってちょっと前に買ったんだけどね。なんだか んだいってビニール袋に放置したまんまだったんだよね。」 「そしたらこんなに黒くなったと。」 うん、そう。 と彼女は呆気なく頷く。 僕は一つ大きな溜息をついた。 「これはどうするの?捨てるの?」 「捨てるなんて勿体無い!」 非難がましく見つめられた。 だけど何もおかしな事は言ってない。むしろ非難されるべきは彼女の方だ!と一 瞬思った。 「じゃあどうするの。このまま食べるの?」 「まさか。」 そう言うと彼女はおもむろに風呂場へ行き、何かを持ってきた。 それは……電動ミキサー。 この家にミキサーなんて有ったのか、と少しだけ感心した。何故風呂場にあった のかとかはあえて突っ込まないでおこうと思う。 彼女は鼻唄混じりで黒いバナナを剥き、ミキサーに入れていった。 「これで何をするか分かったデショ?」 「いや、まったく。」 「鈍いのね。」 そう言って彼女は冷蔵庫から牛乳を取り出した。 呆れられたのだろう。 なんだか凄く悔しかった。 「これでも分からないの?」 「全然。」 「じゃあ……見てて。」 そうして彼女はミキサーに牛乳を注ぎはじめた。 その分量はあまりにもテキトーに見え、きっと出来た量は二人で飲むには多すぎ だろうと思う。 彼女がスイッチを回す。 激しい音をたてながらミキサーが動いて、中のものがどんどん一つに混ざりあっ ていく。 何故だか急にちょっと前に見た昼ドラを思い出した。常に10股程かけている女が フラれた腹いせに付き合っている男達をけしかけて、その男を破滅へと向かわす なんとも言い難いどろどろの愛憎復讐劇だ。 「ほら、バナナセーキ。」 「ふうん。それがバナナセーキか。バナナに牛乳なんだからバナナ牛乳で良いじ ゃん。」 あはは、と大きな声で笑われた。 でも嫌な気はしない。 「せめてバナナミルクにしようよ。あたしね、この泡立ったのが好きなの。」 「そりゃあ知らなかった。」 「貴方でも知らない事有るのね。」 「勿論さ。」 「覚えておくわ。」 そう言いながら彼女は透き通ったグラスにバナナセーキを二人分注いでいた。 コポッと小気味の良い音をたてて流れていく。 「乾杯。」 非日常なんて求めてない。 血みどろの復讐劇なんてのは更に。 平凡な日々で良い。 ただ君がそばに居て、その愛情を枯らさなければ。 そして今度バナナミルクを作ってあげよう。