「つまり…、キャップとラベルは外して燃えないゴミ箱へ、本体はこちらのごみ
袋へ入れて欲しい訳です。」
篠沢は出来るだけ丁寧にゴミの分別について説明した。
「なるほど、東京と埼玉では分別の仕方一つをとっても差が出る訳だ。
所で、篠沢君。ラベルとは本体に巻き付けてあるこの帯状の物。
と、そう言う理解で良いか?」
星野女史はそう言ってペットボトルからラベルを引き剥がした。
「ええ、そうです。
でも星野さん、ミシン目があるので無理に引き剥がさなくても大丈夫ですよ。」
篠沢は星野の様子を見守りながら皿を洗う。



只今篠沢と星野は婚約関係にある。
三日前から同棲しているが、理由は上京した篠沢が他の女に現を抜かさない様に
、との二人の両親の配慮だ。
家間で縁談を決める事も稀な今日、篠沢と星野の縁談は企業間の取り決めにも近
いのだが言及しても仕様がない。

取り合えず目下篠沢が心配しているのは、大学の助教だか教授だかの星野とどう
暮らすかだ。
篠沢はプログラマーとか仰仰しい名で呼ばれる仕事をしているが、仰仰しさで星
野と勝負しようと思う程馬鹿ではない。
そして星野は篠沢の理解の範疇からは若干外れている。

つまり、これから篠沢は仰仰しくて理解の出来ない物と生活せねばならないのだ
が。
そんな暮らしが想像出来る筈もなく、いつもぶっつけ本番である。

そして今日はぶっつけ本番でゴミの分別について講義していた。

「ところで、分別をする事によって誰がどんな利益を得るんだ?篠沢君。」
星野はただ不思議そうに問う。
「取り合えず…ご近所から文句を言われなくて済みます。」
「なら分別が元々義務になっていない方が楽だろう?誰が分別をさせているんだ
?」
星野はキャップとラベルを燃えないゴミ箱に投げるが大分逸れた場所に落下した
。
「知りませんね、お偉いさんが決めてるんでしょうが、…リサイクルとかしやす
くしているんじゃないですか?」
篠沢はキャップとラベルを拾い上げゴミ箱に捨てなおした。
「何処に所属する何より偉い人間だ?」
「…きっと星野さんよりは偉かないですよ…そろそろ飯にしましょう。」
篠沢は講義する筈が逆に講義されそうになっているのを感じ話題を変えた。
「今日は何だ?」
「素麺です。」
「大分…時期が早いんじゃないか?」
「休日に手間がかかる物作んの疲れますからね。」
篠沢は実家から送られて来たものを出しながら答える。
「ああそうだ、篠沢君。」
星野は後ろから呼び掛ける。
「何です?」
篠沢は振り返る事なく答えた。

「今年もよろしく。」



篠沢は何とも言えない顔で素麺を持って振り返る。
「この前から言いたそうにしてたのソレですか…?」